とみいよむよむにっき

本のこと、ベランダのこと、おはなし会のこと、日常のあれこれ。

モミイチと森へ

昨日、読了。
星の牧場 (理論社名作の森)
始めの3分の1は自宅で夜読み、
3分の2は、昨日図書館で2時間ほどかけて読んだ。

戦争に行き、その時の記憶を失くしているモミイチ。
戦争中、大事にしていた愛馬ツキスミの
蹄の音が、どこからか聞こえ、
モミイチはツキスミに会うことを願う。
その音が幻聴といわれても、
どこからか聞こえる蹄の音に、
かならず会えるという気持ちを捨てきれない。

牧場の周りの人たちは、モミイチに優しくしてくれるが、
記憶をなくしている、戦争で頭がおかしくなった
と思われていることは、モミイチにも伝わっている。

森の中へ入り出会ったクラリネットを吹く蜂飼いや、
その仲間のオーケストラのメンバーである
ジプシー暮らしをしている人たちの中に、
モミイチは徐々に溶け込んでいき、
その居場所の心地良さに、鈴を作る。

美しい自然の風景、花、草、木、
風の音や、森の中の生命の呼吸が
伝わってくるような描写。
メンバーの楽器から流れてくる音楽。
モミイチの作った鈴たちの音。
音楽には疎い私だが、楽しげな演奏の描写に、
ついつい、体が揺れてしまったよ。
胸が締め付けられるようなモミイチの一途さ。
ジプシー暮らしをしている人たちの温かさ、
心の豊かさがひしと伝わる。

「わがままな本棚」の第2回で
絲山秋子氏が選んだこの本は、児童書で、
読みたいと凄く思った本。

これは、子どもの時に読んだら、
もっとはまったのではないかと思う。
人の幸せとは何か、考えさせられる。
戦後70年のこの夏に出会えて良かったなぁと思う。

読んでいて、いろんな本のことを思いだした。
小学6年生の時に買って、よく読んでいた
ビルマの竪琴』。
灰谷健次郎氏の『太陽の子』や、
宮澤賢治の作品の『虔十公園林』や『セロ弾きのゴーシュ』他。

ゆめなのか、現実なのか、判断がつかず、
モミイチと同じように、私たちも泣きたくなる。
でも、もし夢だったとしても、
素晴らしいオーケストラの演奏を聴き、
ツキスミを抱きしめることができて、
モミイチは幸せだったはずである。

淡々とおはなしは、進んで行き、
作者が、モミイチ側に寄りすぎない文章が、
逆にこちらの心を揺さぶるし、
美しい景色も、美しい音も、
自然と浮かび上がってくる。
楽しげな仲間との時間も、
牧場の人に外に出してもらえないもどかしさも、
きっと、作者が、モミイチと距離をとっていたから、
余計に読者に伝わる、そういうことがあるんだなぁと感じた。

私には、宮澤賢治の作品を読んだ時と、
似たような感じを受けた。
似ていると思うだけで、もちろん違うのだけれども。
宮澤賢治は、日中戦争がはじまる前に
亡くなったのだけれども、
もし、彼が、戦争を体験していたら、
彼の作品は、全く違ったものになっていただろうと感じる。

人が小説や物語を書くとき、
作者が生まれ育った環境や、社会的背景、
作者の宗教観や、倫理感などは、
どれだけ大きな影響を与えるのだろうと、
そんなことを思いながら読んだのであった。

また、何年かしたら、読み返してみたいと思った本。
反戦がテーマなのかもしれないけれども、
もっともっと大きな「生きる」というテーマを持っている
本だと、私は思う。