とみいよむよむにっき

本のこと、ベランダのこと、おはなし会のこと、日常のあれこれ。

淡々と進んで行く

読了。
クラバート

電車の中で、夢中になって読み、初めて
「乗り過ごす」という体験をした本。

重いのと、図書館の本だったので濡らすわけにいかず、
最近のお天気の悪さのために、
結局、夜おねむの友になったわけだけれど、
おねむの友役を『メタモルフォス』『決壊』に奪われ、
ようやく、昨晩、おねむの友に復活。

第三章は、3時半まで寝ることなく、一気に読み上げた。

淡々と進んで行く物語だったし、
最後はあっさりとした結末。
派手な場面があるわけでなく、
でも、毎日が同じではなく。
淡々と進んで行くが、クラバートは
着実に少しずつ成長していることが、
文章の中に読みとれる。

第一章は、1年目。クラバートの見習時代で、
何が何だか謎な部分が多いので、
その謎を解明したくて読み進んだ。
第二章は、2年目。クラバートが見習いから、
弟子として扱われることになり、
1年目と同じことが繰り返されるが、
何もわからず言われるままにするしかなかった
1年目とは違い、クラバートは物事を考え推察しながら過ごす。
第三章は3年目に入り、自分が置かれている状況を
冷静に受け止め、この場から脱するために
自分を磨き上げていき、そして、自由の身に。

何に導かれてクラバートがここへやってきたのか、
どうして、全てを親方の支配の下に生きなければならないのか、
どうにも理不尽と思える親方の弟子たちの立場。
クラバートは何かを感じ、この立場から逃れるために
自分で考え、学ぼうとする。
自分を助けようとする人との出会いと、別れ。
信頼できる友、愛する人との語らい。
そんな日常でありそうで、ありえない
人間関係も体験できる。
魔法という不思議な世界の中でも、
読者はクラバートに感情移入し、
物語の中を自分の身に降りかかったこととして
捉えることが出来るだろう。

好きな部分は、クラバートの3年目。
自分が初めて見習いになったとき、トンダが
親方に見つからないように隠れて自分を助けてくれたことと同様、
見習いで入ってきた子を助けようとするクラバート。
もう、その時は、トンダがなぜ命を奪われたか、
理由も解っているのだが、見習いを見捨てず、
助けようとする姿に、彼の強さを見る。
その強さは、助けてくれた人や、友や、愛する人のおかげで
培われた生命力とも受け取れる。

あっさりと想像通りのエンディングに、
本を閉じて感じたのは、自由・幸福は、
自分で掴み取るものだということ。
クラバートは、「その時」のために、
魔法の習得にも真面目に向き合い、
自分の感情もコントロールする術を身につける。
楽な方に転がらず、自ら困難な道を選ぶ。
それが、大人になることに繋がっているのだな。
中学生に読んで欲しい作品だなぁと思う。

オトフリート・プロイスラーは大好きな作家。
この本が日本で出版されたのは1980年。
丁度、私が中学1年生の頃だ。
昔からある本を、大人になって初めて読んだ時、
いつも思うが、その当時出会っていたらなぁと悔しく思う。
けれども、今読んだことで、
今の子どもたちに薦めることは出来る。

いい読書だったなぁ。