読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

とみいよむよむにっき

本のこと、ベランダのこと、おはなし会のこと、日常のあれこれ。

蝉しぐれ

通勤途中、ビルの横に

ケヤキが16本2列に並んだ通りがある。

そのケヤキの下を通るのが、楽しい。

葉が茂っているので、太陽に光をいい感じで遮ってくれる。

雨が降っても、傘に落ちてくるのは、

ケヤキがいったん受け止めた雨だれなので、

傘に当たって響く音が、不規則で面白い。

 

梅雨明けに、このケヤキの木の下を朝通って気づいた。

おびただしい数の蝉が鳴いているのである。

それはもう、せみセミ蝉の、大合唱で、

鳴くのはオスばかりって、ほんとうなのか?

と思わせるくらいの。

そのケヤキのトンネルの中では、

蝉の声しか聞こえないのである。

蝉の声が響くと、暑く感じるものだが、

このケヤキの下で聴く蝉の声は、うるさいとは違う。

 暑さを通り越しているくらい、響いている。

蝉の声のうねりが、頭の中でぐるんぐるん。

トンネルをゆっくり歩いて、全身に

蝉の声シャワーを浴びると、

16本のケヤキの下を通り抜けた後、

街中なのに、シーンとする瞬間がある。

耳の奥で感じる、静寂。

どこか、遠いところに連れていかれた気分になる。

暑さとかではなくて、鬱陶しい皮をべりっと剥かれた気分。

その静寂の中、感じる涼が、心地よい。

 

ケヤキのトンネルの下、見上げると、

お行儀よく並んだケヤキは、ちょっぴり薄い緑の葉っぱを輝かせ、

太陽の光をうまい具合に透かして届けてくれる。

風に揺れる枝葉は、軽やかに踊っているようで美しい。

人工的に植樹された並木であるが、

そこに集まる光や風や雨や、鳥、蝉の鳴き声は、

計算されたものではないように思う。

 

人工的な光や音は、どうも感覚に優しくないが、

自然のものは、少々度が過ぎていても、

ある程度は人間の感覚で受け止められるものだ。

受け止められない程のものを、

人は、危険や恐怖に感じていたのではないだろうか。

 

自然の中で生きていたころの感覚を忘れないように、

時々、風に吹かれたり、雨に濡れたり、

音に耳を澄ましたりする。

人の声も、自然のものであるが、

悲しいかな、その言葉はかなり、

心に優しくないものになりつつあるような気がする。

人と話をしていると、大変疲れるときがある。

山の中に引きこもりたいような気分になる。

人間も自然の一部であると言われ、納得できる部分もあるが、

知らず知らずのうちに、

人間は自然の一部であることを捨てているのかもしれない。

そうなりたくないので、時々立ち止まる。

うるさいと感じる蝉の声であっても、

人の精神を弱らせるようなことはない。

 

自分が発している言葉も、不要なものが沢山あって、

喋るのが億劫に感じられる。

インプットするときにも、篩にかけることが大切だけれど、

アウトプット時には、それ以上に絞り込んで発したい。

人間の言葉は、蝉や鳥の声とは違い、余計なものを

多く含んでいるから。

 

「人間だけが、のべつ幕なし騒音をまき散らしているのだ」

『シングル・セル』増田みず子:著の中の文章だったか…。

頭の中で、言葉を使って、とめどなくいろんなことを

考えていても、外に出す言葉は、その一部でいい。

一割なんて、多すぎる。

ほんの数パーセント、そんなところだろう。

1パーセントにも満たない、それくらいでいいように思う。

とにかく、人の言葉には、用心しなければ。

 

本を読んでいて、それが、心地よいとか、

満たされる気持ちになるのは、

きっと、その言葉が絞り込まれた言葉だからではなかろうか。

それができない自分が、ベラベラと喋り続けている事実に、嫌悪感。

どうして人間は、どうでもいいことを付け加えてしまうのだろう。

伝えなくてもいいことや、伝えたくても伝わらないことが

沢山あることに気づいているのに。

いや、もしかしたら、気づいていないのかもしれないが・・・。

 

視覚、聴覚、嗅覚、触覚と、感じる器官は

目、耳、鼻、手と二つずつあるが、口は一つしかない。

口は禍の元、どんな美しい言葉も、

人を褒め称える言葉も、多すぎるとそれは、

気分を害する言葉になるような気がする。

ほかの動物を見ても、口は鳴くとか吠えるとか

それくらいの音を発するくらいで、

もともとは、エネルギーを得るための器官であるし。

 

あ、そういえば蝉は、口で鳴いているのではなかった。

蝉の発音器官が発達して、余計な音をたてるように

なったりするのだろうか。

今のところ、メスを呼びよせる以外に

何の余計な思惑もなさそうだが。

もし、そうなったら、蝉時雨も耳障りなものになるかもしれないなぁ。