とみいよむよむにっき

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ギリギリセーフな人生

魔の山
モーリー・ハンター:作 田中明子:訳 評論社

最初ちょろりと読んで、暫く他の本を読んで、
思いたって今日残りを全部読んだ。

作者が女性であることを、訳者あとがきで知って、
へぇ…と思う。
なんというか、硬い(訳もそうだが、もともとが
そういう文章らしい)
硬いっていうか、厳ついというか…
脂肪のあんまりついていない、筋肉質のアスリートみたいな。(ボディビルダーまではいかない)
無駄がない感じ。
なので、なんとなく昔話をきいた風な、読後感。

主人公は父なのか、息子なのか…
前半はまだ、父が一人者なのだが、
そこで、父は頑固一徹ぶりを披露。
日本で言えば、「そんなことして、ばちがあたるよ!!」
みたいなことだが、
山の精に対してのタブーを冒してしまう。
しかし、罪の意識など全くなく、
「そうでなければ、自分が自分でなくなってしまう」
みたいなことを言って、周りの忠告無視。

そんな父、結局山の精たちの仕返しを
向こう見ずさでかわし、
その向こう見ずさに逆に惚れ直してしまった女性と
結婚し、息子も生まれ、幸せにくらしていくのだが、
まー、何年経っても山の精たちの怒りはおさまっておらず、
父の頑固一徹さも変わっちゃいなかった。
どちらも、なかなかのしつこさである。

で、捉えられてしまった父のことを、死んだと思っていた
息子が、
実は父は捉えられていて、7年経つといけにえにされてしまうことを知る。
ここは、やっぱり血の繋がった息子で、
父に似て、頑固一徹…なのである。
止める母を説得し、父を救いに行くのだが。

プロイスラーの『わたしの山の精霊ものがたり』で、
短くも山の精霊が、いたずら(というには、ちょっぴり
お仕置きに近い)するおはなしが沢山で、
自然界の中の一部である人間が、
自然を無視した時…のような話を読んだこともあって、
魔の山』で、この父が冒したタブーのために
怒らせた山の精たちを鎮めるような結末だろうか?
と思いながら読み進めたのに、なんのなんの。
人間が勝っちゃうというなんとも強いおはなしであった。

だいたい、父のそのタブーの破り方がなんかもう、
子どもじみていて笑えるんだけれども、
しかし…こういう人いるいる。
それに、自分の中にも、こういう頑固さがあって、
ちっとばかし心臓ぐりぐりされた気分。

頑固一徹とはいっても、なんかこう、精神的なことではなくて、
自分の土地のほんの少しでも山の精なんかにやるもんか
っていう…強欲である父なもんで、
助かっちゃうんだ…と、あっけにとられたような
そんな読後感なわけである。
昔ばなしにもよくあるでしょう、え?そうなるの?
みたいな…。あ、アンデルセンもそういうのあるな。
あまりの父ちゃんの頑なぶりに、
山の精たちもたじたじなのである。
しかし、本当にここで強いのは、奥さんではなかろうか
と思ったりもして…。

爽快な話ではないけれど、父は爽快であったろう。
これはハッピーエンドなのかな?とも思うけれども、
最後は山の精に屈せずとも、鎮める方向に動く一家で
あったのが、私には救いであった。
こういう生き方もあるのかぁ…な、おはなしであった。

しかし、いかんせん、文章が硬い。
ページ数はそんなにないが、字が小さいので、
文章量は多いのかもしれない。