とみいよむよむにっき

本のこと、ベランダのこと、おはなし会のこと、日常のあれこれ。

引力

一昨日、おはなしの先生の講座に参加した。

久しぶりにお会いするのと、
満員御礼で、受け付けが終わっていたので、
沢山の方がいらっしゃるのだろうと、
少々、気後れしながら朝を迎えた。
それでも、やっぱり、お会いすると思うと、
心が逸るというもので、
朝、電車の中で何を読みながら行こうか…
先生の書かれた文章か…それとも、全く関係のない本か…

そう思いながら選んだ『真贋』の終盤で、
吉本隆明氏の戦中・戦後の心の変化を知る。

読み終わって、講座の会場へ少し歩いていく。
おはなしを語ること、おはなしを聴くことについて、
今日は何をお話してくださるのだろう?と
ワクワクした気持ちで、講座のスタートを待っていた。

おはなしは、先生の子ども時代、つまり、
戦中、そして、敗戦をむかえ、終戦してからのことで
スタートした。
凄く勝手なことだけれども、やはり、
なにか、こう繋がるものを感じたのであった。
本当なら、ここ数日は『生命力の行方』を
電車の中で読んでいたので、本を『真贋』に入れ替えたのは、
なんとも偶然なことで、また、その中でもちょうど、
吉本氏が終戦を迎えて、気持ちが変わったところを
読んでいたのも、たまたまなのであった。

先生は、吉本氏よりも10年後に生まれていらっしゃる。
私の父より、2歳ほどお若い。
吉本氏より、先生は終戦の時、子ども時代、
それも、思春期の入り口だったはずで、
受けた衝撃は、吉本氏の感じたものとは、
違っていたかもしれない。しかし、
そこを、次の世代に伝えておきたいという、
今の先生の気持ちは、吉本氏と同じ気持ちだったと思うし、
戦争を知らない世代の自分には、とても有難かった。

言葉で、心を繋ぐ。
自分の中にあるものは伝わるし、
無いものは伝わらない…そんなことを話していただき、
それはすなわち、おはなしを伝えるのには、
語る側が、どれだけそのおはなしを咀嚼して
自分の物に出来ているか…
どれだけ、誠実におはなしを子どもに届けようと
しているか…そういうことだと思う。
ただ、好きってだけでは、足りないのだってことだと
受取った。

先生のお話を伺って、おはなしを選ぶということに、
もっと、深く考えなければなぁと思い、
心がこめられた上辺だけでない言葉だから、
伝わるのだということも納得しながら、
帰り道、古書店に立ち寄った。

そこで、先生がお好きだとおっしゃっていた
宮本百合子さんの全集を見つけた。
購入には至らなかったのだが、
今までだったら、目に留まらなかったかもしれない
その全集が、凄い勢いで飛び込んできた。
中に入って、手が伸びたのは『手仕事の日本』。
手仕事の日本 (岩波文庫)
私が購入したものは、この表紙ではなく、
岩波文庫の青!って感じの表紙であった。
当時(1985年)の価格が500円。
古書価格400円。
現在の新しい本は税込の907円のようだ。

結局気に入って購入した。
タイトルに惹かれたというのもある。
数日前、友達とわっぱの話をして、
TV番組・和風総本家メイドインジャパン
回が好きだという話をしていたからかもしれない。

今でも岩波文庫で出ているようなので、
見たことがあったと思うのだが、
今日はこの本が無性に引っかかった。
コーヒー店に入り、『手仕事の日本』を
読んで、どこか、先生のおはなしに通じるところがあり、
また更に、今日の先生のおはなしと、
この本との出会いに感激した次第。

戦前の、日本で作られている民芸品の数々を
紹介している本である。
手でする仕事には心が繋がっている。
良くも悪くも、その仕事は出来上がった
民芸品に作り手の心が現れるというもの。

つまり、先生がおっしゃっていた、
おはなしには、心がそのまま言葉にのって
伝えられるということと、
手仕事に込められる作り手の心が、
民芸品に反映されるということで、私の中で合致したのだ。

ストーリーテリングをするならば感性を磨けと
いつか、どなたかがおっしゃっていたが、
日々、世の中や自然を見つめること、自分を見つめること
そして、自分の心の中で、じっくり考える事、
それが、感性を磨くことになるのかもしれない。
魂を磨くということだなぁと感じた。
自分の好きなところも嫌いなところもじっくり見つめて、
おはなしを聴きながら、自分を振り返り、
そうしてまた、おはなしも、すんなりと、
誰かに伝わるように磨かれていくのだろう。
煌びやかに光る必要はない。
飾りも何もくっつけなくてもいい。
ただ、誠実さをもって、おはなしに付け足すものは、
自分の心だけでいいのだなぁと感じた。
しかし、その自分の心を、しっかりと、
磨いておくべきであるなぁと、反省もしたのであった。

なにかに導かれて、生きているように思う。
そんな私を引っ張る力に、逆らわずに生きていきたい。