とみいよむよむにっき

本のこと、ベランダのこと、おはなし会のこと、日常のあれこれ。

海の向こうへ

12.09.07−13 上巻
12.09.13−29 下巻

ニルスのふしぎな旅〈上〉 (福音館古典童話シリーズ 39) ニルスのふしぎな旅〈下〉 (福音館古典童話シリーズ 40)

作者であるセルマ・ラーゲルレーヴという人が、
ノーベル文学賞を受賞した女性であるということを、初めて知った。
1909年、女性初の受賞者。

ニルスといえば、NHKでアニメーションでやっていたが、
数回しか見たことがない。
読む前にあのアニメが読むのにイメージとしてあったことは
間違いないが、
私の中では、すぐに別物になった。
思い描いていた冒険物とは、かなり違っていた。

国の自然、背景の描写が素晴らしい。
特に空から地上を見下ろす鳥瞰的な描写が好きだった。
畑に実る作物の違いで、色が違っていて、
上から見た図を布の模様に喩えているところは、
まるで、本当にガンたちとともに旅をしているような気分になる。
また、伝説であったり、町や自然にまつわる話であったり、
ニルスが主人公ではあるが、どちらかというと、旅先への
同行者と言った感じだ。
そう言った、旅の時間の流れとは別の話が頻繁に出てきて、
スウェーデンの子どもたちの為の、地理の教科書であったということが、よく解る。
けれども、訳者のおかげで、より読みやすい、
ひとつの楽しい物語へとまとめられている。

一つ一つの逸話が、短いのだが、とても魅力的で、
こういうものを絡めて自国を知るというのは、
とても理想的なのではないだろうか。

この本を読みながら、プロイスラー
『わたしの山の精霊(リューベツァール)ものがたり』を思い出した。
わたしの山の精霊(リューベツァール)ものがたり
幼い頃に聞いた故郷に伝わる山の精霊の話をもとに、
作り上げられたこの本からも、
作者が自分の故郷を大切に思う気持ちが伝わってきた。
時代は変わっても、変わらない人間性であるとか、
自然との調和だとかを訴える作品だと受け取った。
ニルスのふしぎな旅』も、これに似ている。

時間がかかったのは、下巻に入ってすぐに、
変則的である仕事が、一週間ほど連続であったことによる。
しかし、この本は細切れでも十分楽しめる。
50以上に分けられた章は、それぞれ、
各地方の逸話などをまとめたものなので、
中にはそれ単独で十分味わい深いものになっている。
最近出ている、ニルスの絵本は、
そういうお話を選んで絵本にしてあるのだろう。
絵本から攻めるもよし、先に全編読み上げるもよし。

こういう本をじっくり読むと、
では、私の住んでいる国は…?と思う。
日本という国は、愛すべきところも沢山あるはずなのに、
どうもそれが、子どもに伝わっていないようなのが、
残念であるなぁと思う。
愛国心とまではいかないまでも、
自分の育った場所に対する愛着心であるとか、
町を興してきた先人への思いであるとか、
そういうものを、感じるものが、
古いものとして、排除されている気がしてつまらない。

――ダーラナに住み、
  ダーラナに生き
  貧しさに屈せず、実直、真摯に…――

ダーラナ地方の夜祭にて、桟橋に集まって人々が
シャスティばあさんのはなしを聴いている。
その桟橋でニルスが聞いた歌の一節。
この一節を読んで、ある種族が自分たちの生き方を誇りとしていることや、
幸福感がボワッと私の中に広がって、涙が出てきた。

ニルスの旅が無事に終わり、
海の向こうにアッカの隊が飛び去って行くシーンは、
別れの寂しさもあるが、寂寥感というのとは別物だ。
彼らへの感謝の気持ちで一杯になる。
まだ、ニルスの旅は終わっていない。