とみいよむよむにっき

本のこと、ベランダのこと、おはなし会のこと、日常のあれこれ。

適当でいられない不器用さ

鳴りひびく鐘の時代に
私が借りたのは、こんな表紙ではなかった。
10月23日に読みはじめ、少し読んで以来、
なかなか読み進められなかったが、
11月3,4,5日で読了。
返却期限が近付いたから一気に読んだというわけではない。
たまたま、この本に引き寄せられるような精神状態であった
ということなのだと思う。

この本の一章は、あっという間に読んだのだ。
凄く面白そうだ!と思ったのだ。
しかし、ゆとりのある生活を送れていなくて、
結局、読めなかった。
あと4日というとき、お昼休みに読んだら、
帰って止まらなくなった。

登場人物がさほど多いわけではないが、
視点があちこちし、ちょっとそこは読み辛い。
だが、その読み辛さも、この本の魅力であるような
気がしてくる。
きびきびした文章。こういうのを、静謐というんだろう。
その文章に負けず劣らず、真っ直ぐな内容だ。

13歳で王となったアルヴィド。
その、真っ直ぐにしか生きられない不器用さが、
気の毒な気もするが、とても羨ましいとも思う。

あらすじはもう書くまい。
とにかく、読み応えのある作品。
そして、アルヴィドの精神、正義、哲学それは、
彼が読書から身に着けた物であった。

何事も適当では終われない人なのであろう。
持って生まれたものかもしれない。
何につけても、考え込んでしまう。
真面目な性格は、周りの大人たちを困らせる。
若き王、彼のまわりに鳴りひびく鐘や、
彼の世界観を織り込ませた絨毯、
ヘルゲの育った田舎の風景など、
大変細やかに描かれていて、とてもイメージしやすかった。
そして、不器用なアルヴィドの、友情や愛情が
少しだけでも深まりつつある、そんな余韻の残る終わり方。
アルヴィドはもう、大丈夫だろう、
生き辛くとも、ヘルゲやエンゲルケが傍らにいるから。
そんな風に思える終わり方であった。

そして、何より…このアルヴィドやヘルゲやエンゲルケの
考え方に、妙に惹かれるものがある。
これは、すなわち、作者の考えなのだろうが、
その世界観に、つい大きく頷いてしまう。

こういうものを、中学の時に読んでいたら…
そんな風に悔やむくらいの作品。
そして、この本、ぜひ欲しい!とおもったのに、
現在は品切れ中のようだ。
明日、返却日なのだが、もっともっと
じっくり読みたいものだ。
エンゲルケのようにね。

堅苦しい内容であるけれども、大好きだ。
いろんなシーンが、ググッと引きつけて放さない。
特に、アルヴィドがヘルゲに初めて語るシーン。
初めてのむち打ち式のシーン。
夏至のお祭りで、道化王となっているヘルガの凛々しさ。
どれもこれも、背筋を正して読みたくなるような文章が続く。
児童書とはいえ、大人が読んで、何かを学び取れるもので
あるように思えて仕方ない。
『バンビ』同様、これは、生き方を考えさせられる本だ。
こういう本を読むと、読書は血となり肉となり…と思う。
生きていくための糧をたっぷりいただいた。